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抽象派(抽象画)とは?初心者向けに歴史や代表画家・見方を徹底解説

「美術館で抽象画を見たけれど、何が描いてあるのか全く分からなかった」「ピカソやカンディンスキーの絵はどう楽しめばいいの?」
アートに興味を持ち始めたばかりの方から、このような疑問の声をよく耳にします。

「抽象派(抽象画)」とは、風景や人物といった具体的な対象をそのままキャンバスに写し取るのではなく、色や形、線そのものの組み合わせによって画家の内面や思想、エネルギーを表現する美術のスタイルです。

一見すると難解で、時には「子供の落書きのようだ」と評されることもある抽象画ですが、それが誕生した歴史的な背景や、画家たちが何を目指して筆を動かしたのかを知ることで、見方はガラリと変わります。

本記事では、「抽象派とは何か」を初心者にもわかりやすく徹底解説します。

なぜ画家たちは目に見えるものを描かなくなったのかという歴史的背景から、キュビスムや抽象表現主義といった代表的な種類、有名な画家たちのエピソード、そして今日からすぐに実践できる抽象画の楽しみ方まで、アートの奥深い世界を網羅的にお届けします。

この記事を読み終える頃には、抽象画に対する苦手意識が消え、自由にアートを感じる喜びを見つけられるはずです。

目次

抽象派(抽象画)とは?基本的な意味をわかりやすく解説

まずは「抽象派」ならびに「抽象画」という言葉の基本的な定義について解説します。私たちが普段見慣れている絵画と何が違うのか、その本質を紐解いていきましょう。

具体的な対象を持たない絵画

抽象画とは、現実の世界に存在する人物、風景、静物といった具体的なモチーフをそのままの形で描かない絵画のことです。

英語では「Abstract art(アブストラクト・アート)」と呼ばれます。「抽象」という言葉には、物事から特定の要素を抜き出して本質を捉えるという意味があります。

つまり抽象画は、目に見える表面的な形にとらわれず、画家が感じた感情、音楽のリズム、精神性、あるいは色彩や線そのものの美しさといった「目に見えないもの」を視覚化しようとする試みだと言えます。

具象画との決定的な違い

抽象画の対義語として用いられるのが「具象画(ぐしょうが)」です。具象画とは、リンゴならリンゴとして、山なら山として、誰が見てもそれが何であるかが明確にわかるように描かれた絵画を指します。

具象画が「視覚的な情報を共有するための絵画」であるならば、抽象画は「画家の内面や感覚を共有するための絵画」です。具象画を鑑賞する際は「何が描かれているか」が重要な手がかりになりますが、抽象画では「どのように描かれているか」「そこから何を感じるか」が重要になります。

「抽象派」という言葉について

美術の歴史において「印象派」や「シュルレアリスム(超現実主義)」といった明確なグループや運動が存在するのに対し、実は「抽象派」という単一の組織や明確な派閥が存在したわけではありません。

抽象画を描く画家たち、あるいは抽象美術という大きなジャンルを総称して、一般的に「抽象派」という言葉が使われています。

その中には、感情を激しくぶつけるようなスタイルの画家もいれば、定規で引いたような幾何学的な図形を組み合わせる画家もおり、表現方法は多岐にわたります。

抽象画はなぜ生まれた?誕生の歴史と時代背景

人類は長い間、目の前にある現実の世界をいかに本物そっくりに描くかという技術を磨いてきました。ルネサンス期から続く「写実主義」がその代表です。

では、なぜ20世紀に入り、画家たちは突然「目に見えないもの」を描き始めたのでしょうか。そこには、社会の急激な変化と美術の存在意義を揺るがす大きな出来事がありました。

写真技術(カメラ)の発明と絵画の役割の変化

抽象画が誕生する最大のきっかけの一つが、19世紀における写真機(カメラ)の発明と普及です。

それまでの絵画の大きな役割は、王侯貴族の肖像画を残したり、美しい風景を記録したりすることでした。しかし、カメラが登場したことで「現実をそのまま正確に記録する」という役割は写真に奪われてしまいます。

画家たちは「写真で現実を完璧に写し取れる時代に、わざわざ絵の具を使って絵を描く意味は何なのか?」という強烈なアイデンティティの危機に直面しました。その結果、「絵画にしかできない表現」を模索し始めることになったのです。

写実主義から印象派・ポスト印象派への移行

写真の登場に対抗するように生まれたのが「印象派」です。クロード・モネやピエール=オーギュスト・ルノワールに代表される印象派の画家たちは、物の形を正確に描くことよりも、光の移ろいやその瞬間の空気感を色彩で表現することに重きを置きました。

印象派はまだ具象画の範疇にありましたが、「見たままの形を正確に描かなくてもよい」という価値観を美術界にもたらした意味で、抽象画へと至る重要なステップとなりました。その後、フィンセント・ファン・ゴッホやポール・ゴーギャンといったポスト印象派の画家たちが、自らの感情を色彩に託すようになり、絵画は少しずつ現実の形から離れていきます。

セザンヌがもたらした多角的な視点

抽象画の誕生において「近代絵画の父」と呼ばれるポール・セザンヌの存在は欠かせません。セザンヌは「自然のあらゆる形は、円筒、球、円錐に還元できる」と考え、対象を幾何学的な形に分解して画面を構成しようとしました。

また、一つの視点からだけでなく、複数の視点から見た対象を一つのキャンバスに再構築するという画期的な手法を生み出しました。このセザンヌの革新的なアプローチが、後に続くパブロ・ピカソらに多大な影響を与え、完全な抽象画へと扉を開く決定的な要因となったのです。

抽象派の歴史を彩る代表的な種類と有名な画家たち

「抽象画」と一口に言っても、その表現スタイルは画家や時代によって全く異なります。ここでは、抽象美術の歴史を彩ってきた代表的な種類(運動)と、それを牽引した有名な画家たちを詳しく解説します。

キュビスム(立体派)|抽象化への第一歩を踏み出した革命

キュビスムは、20世紀初頭に誕生した美術運動で、対象を幾何学的な形に分解し、複数の視点から見た様子を一つの画面に再構成する手法です。厳密には「何が描かれているか」というモチーフが存在するため完全な抽象画ではありませんが、現実の形を解体したという点で、抽象画への道を切り開いた極めて重要な運動です。

代表的な画家であるパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックは、セザンヌの理論をさらに押し進め、対象をサイコロ(キューブ)のように分解して描きました。これにより、絵画は「現実の模倣」から完全に自立した独自の表現空間を獲得しました。

純粋抽象(熱い抽象)|感情や内面のダイナミックな表現

現実の対象を一切描かず、色と形だけで構成される完全な抽象画(純粋抽象)を美術史上で初めて描いたとされるのが、ロシア出身の画家ワシリー・カンディンスキーです。

カンディンスキーは、音楽を聴いて色彩を感じる「共感覚」の持ち主であったと言われており、キャンバス上で色彩や線が交響曲を奏でるようなダイナミックな作品を生み出しました。彼のように、画家の感情や直感、内面的なエネルギーを激しい筆致と色彩で表現するスタイルは、後に「熱い抽象」と呼ばれるようになります。

新造形主義(冷たい抽象)|幾何学的な構成美の極致

カンディンスキーの「熱い抽象」と対極に位置するのが、オランダの画家ピエト・モンドリアンが提唱した「新造形主義」です。

モンドリアンは、宇宙の真理や普遍的な調和を絵画で表現しようと追求した結果、水平線と垂直線、そして赤・青・黄の三原色と無彩色(白・黒・灰)のみで画面を構成するスタイルにたどり着きました。

定規を使ったような直線と色面で構成される彼の作品は、個人の感情を極限まで排除していることから「冷たい抽象」と呼ばれています。この幾何学的なデザインは、現代の建築やファッションにも多大な影響を与え続けています。

シュプレマティスム(絶対主義)|純粋な感覚の追求

ロシアの画家カジミール・マレーヴィチが創始したのが「シュプレマティスム(絶対主義)」です。マレーヴィチは、絵画からあらゆる現実のイメージを排除し、純粋な感覚や精神性のみを表現しようとしました。

彼の最も有名な作品『黒の正方形』は、白いキャンバスの中央に黒い正方形を一つだけ描いたもので、発表当時、美術界に大きな衝撃を与えました。これは「絵画をゼロに還元した」と評価され、抽象画が到達した一つの極致として語り継がれています。

抽象表現主義|アメリカで開花したアクション・ペインティング

第二次世界大戦後、美術の中心地はパリからアメリカのニューヨークへと移ります。そこで誕生したのが「抽象表現主義」です。

代表的な画家であるジャクソン・ポロックは、キャンバスを床に置き、絵の具を直接垂らしたり飛び散らせたりする「ドリッピング」という技法を生み出しました。絵を描く「行為(アクション)」そのものを芸術とするこのスタイルは「アクション・ペインティング」と呼ばれました。

また、マーク・ロスコのように、巨大なキャンバスを数色の色面で覆い尽くし、鑑賞者を色彩の空間に包み込むような「カラーフィールド・ペインティング」も抽象表現主義の重要な潮流です。

難しくない!抽象画の正しい見方と楽しみ方

「抽象画は難解だ」「どう評価していいかわからない」と感じる方は少なくありません。しかし、抽象画の鑑賞に「正解」はありません。ここでは、初心者でも抽象画を存分に楽しめるようになるためのポイントを解説します。

「何が描かれているか」を探さない

抽象画を見る際、最もやってはいけないのが「これは何を描いているのだろう?」と現実のモチーフを探してしまうことです。抽象画はそもそも具体的な対象を描いていないため、答え探しをすると混乱してしまいます。

まずは「これは何か」という思考を一旦停止し、ただ目の前にある色や形、線の動きそのものを純粋に眺めてみましょう。

音楽を聴くように「視覚の心地よさ」を味わう

抽象画の鑑賞は、歌詞のないインストゥルメンタル音楽(クラシックやジャズなど)を聴く感覚に似ています。音楽を聴くとき、「この音符は何を意味しているのか」と論理的に分析するのではなく、メロディの美しさやリズムの心地よさを感覚的に楽しむはずです。

抽象画も同じように、「この赤色は情熱的で美しい」「この線の動きはリズミカルで心地よい」といった視覚的な快感を味わうことが、最も基本的な楽しみ方です。

タイトルや画家の背景から想像を膨らませる

作品のタイトルは、画家が残した重要なメッセージやヒントです。例えば、ただの色の塊に見える絵でも、タイトルが『春の喜び』であれば、その色彩から春の暖かさや生命の芽吹きを感じ取ることができるかもしれません。

また、画家がどのような時代を生きたのか、どのような思想を持っていたのかといった背景知識(コンテクスト)を知ることで、作品に込められた深い意味やエネルギーが理解できるようになり、鑑賞の解像度がグッと上がります。

自分の感情や記憶とリンクさせる

抽象画は、見る人の心の状態によって見え方が変わる「鏡」のようなアートです。ある人には悲しげに見える青い色面が、別の人には心を落ち着かせる癒しの色に見えることもあります。

「この絵を見ていると、なぜか懐かしい気持ちになる」「この激しい筆使いは、今の自分のイライラした気分に似ている」など、作品と自分自身の感情や記憶を結びつけて対話することこそが、抽象画の醍醐味と言えます。

抽象絵画を生み出す代表的な描き方・技法

抽象画家たちは、自らの内面を表現するために、筆で描くという伝統的な枠組みを超えた様々な新しい技法を生み出しました。ここでは代表的な技法をいくつか紹介します。

ドリッピング(吹き付け・垂らし)

ジャクソン・ポロックが確立したことで有名な技法です。キャンバスをイーゼルに立てるのではなく床に平置きし、筆や棒に含ませた絵の具を上から垂らしたり、飛び散らせたりして画面を構成します。画家の身体の動き(アクション)がそのまま軌跡としてキャンバスに定着するため、非常に躍動感とエネルギーに満ちた作品になります。

スキージ(大型のヘラを使った表現)

現代ドイツの巨匠ゲルハルト・リヒターなどが用いる技法です。キャンバスに絵の具を置いた後、「スキージ」と呼ばれる大型のヘラやゴム板を使って、絵の具を力強く引き伸ばしたり削り取ったりします。

これにより、予期せぬ色彩の混ざり合いや、複雑な層(レイヤー)が生まれ、筆では決して描けない偶発的で美しいテクスチャーを作り出すことができます。

オートマティスム(自動記述)

無意識の世界を探求したシュルレアリスムの画家たちが多用した技法ですが、抽象画の制作プロセスにも深く関わっています。

理性を働かせて「こう描こう」と計画するのではなく、頭を空っぽにして、手の動くまま、無意識の赴くままに線を引いたり色を塗ったりする手法です。画家の心の奥底にある無意識のエネルギーを直接キャンバスに引き出すことを目的としています。

日本で抽象画を堪能できるおすすめの美術館

抽象画の魅力は、画集やスマートフォンの画面では到底伝わりません。巨大なキャンバスの迫力や、絵の具の物質感、色彩のパワーを体感するには、実際に美術館へ足を運ぶのが一番です。日本国内で優れた抽象画コレクションを持つおすすめの美術館を紹介します。

  • アーティゾン美術館
  • 東京都現代美術館
  • 東京国立近代美術館

アーティゾン美術館(東京都中央区)

旧ブリヂストン美術館として知られ、印象派から近代・現代美術まで幅広いコレクションを誇ります。ピカソやカンディンスキー、ポロック、ロスコなど、抽象画の歴史を語る上で欠かせない巨匠たちの名品を数多く所蔵しており、抽象美術の変遷を体系的に学ぶことができる素晴らしい美術館です。

東京都現代美術館(東京都江東区)

戦後から現代に至るまでの国内外の現代アートを網羅的に収集・展示している日本最大級の現代美術館です。巨大な展示室を活かし、大画面の抽象表現主義の作品や、現代のアーティストによる最先端の抽象作品をダイナミックな空間で堪能することができます。

東京国立近代美術館(東京都千代田区)

日本の近現代美術の歴史をたどることができる美術館です。西洋の抽象画から影響を受けつつも、日本独自の精神性や美意識を融合させた日本人画家たち(例えば、具体美術協会の吉原治良や白髪一雄など)の優れた抽象画作品を多数所蔵しており、日本における抽象美術の発展を知るのに最適です。

抽象派に関するよくある質問(FAQ)

抽象画について、初心者の方から寄せられることの多い疑問にQ&A形式でお答えします。

抽象画と印象派の違いは何ですか?

印象派は、モネの『睡蓮』のように、風景や人物といった「具体的な対象」が存在し、それを光や色彩の変化に注目して描いた「具象画」の一種です。一方、抽象画は、具体的な対象を完全に排除し、色や形、線だけで構成された絵画です。印象派が「外の世界(自然)」を描いたのに対し、抽象画は「内の世界(精神や感情)」を描いたものと言えます。

子供の落書きと有名な抽象画の違いは何ですか?

一見似ているように見えるかもしれませんが、その背景にある「意図」と「歴史的文脈」が全く異なります。子供の落書きは無意識の遊びや手の運動の延長ですが、巨匠たちの抽象画は、美術の歴史や理論を深く学んだ上で、あえて形を崩したり、色彩のバランスを極限まで計算したりして生み出されたものです。つまり、抽象画には画家なりの明確な哲学や美学的追求が込められています。

ピカソは抽象派の画家ですか?

ピカソは「キュビスム」の創始者であり、対象の形を激しく解体・変形させましたが、完全に現実のモチーフ(人物やギターなど)をなくしたわけではないため、厳密な意味での「純粋な抽象画家」ではありません。しかし、彼が具象画のルールを破壊したことが、後のカンディンスキーやモンドリアンによる完全な抽象画誕生の決定的なきっかけとなったため、抽象美術の歴史において最も重要な人物の一人として位置づけられています。

まとめ

抽象派(抽象画)は、目に見える現実をそのまま描くのではなく、色や形、線を通じて画家の内面や目に見えない精神のエネルギーを表現する美術のスタイルです。

写真技術の登場や印象派の誕生といった歴史的な背景の中で、画家たちが「絵画にしかできない表現」を必死に模索した結果として生まれました。カンディンスキーの情熱的な「熱い抽象」から、モンドリアンの計算し尽くされた「冷たい抽象」、そしてポロックの躍動する「アクション・ペインティング」まで、その表現方法は多種多様です。

抽象画を鑑賞する際は、「何が描かれているか」という答えを探す必要はありません。音楽を聴くように色彩のリズムを感じ、自分の記憶や感情と重ね合わせながら、自由に解釈を楽しむことが最大の醍醐味です。

次に美術館を訪れる際は、ぜひ本記事で紹介した歴史的背景や見方を思い出しながら、抽象画の前に立ってみてください。きっと、これまでとは違う新しいアートの魅力に出会えるはずです。

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